馬は立ったまま目を閉じていることがあるため、「横にならずに眠る動物」と思われがちです。実際には、馬は立ったままでも休息や徐波睡眠の一部を取れますが、レム睡眠を安定して取るには横になる必要があるとされています。つまり、一生横にならないわけでも、すべての睡眠を立ったまま取れるわけでもありません。
睡眠時間や寝方は、年齢、健康状態、飼育環境、群れの関係、気候などで変わります。横になっている姿だけで病気とは判断できませんが、長時間起き上がれない、苦しそう、普段と明らかに違う場合は、施設の管理者や獣医師へ相談することが大切です。
馬は立ったまま寝るの?
馬は立ったまま、うとうとした休息や浅い睡眠を取ることができます。頭を少し下げ、首の力を緩め、片方の後ろ脚を休ませる姿が見られることもあります。すぐに周囲へ反応しやすい姿勢なので、短い休息を何度も取る馬に適しています。
しかし、立位だけですべての睡眠段階を十分に取れるわけではありません。馬は胸を地面につけたり、体を横へ倒したりして眠ることもあります。睡眠の深さによって、立つ、胸をつける、横になるという姿勢を使い分けます。
草食動物として周囲の変化へ注意を向けやすい性質は、休み方にも関係しています。馬の体や習性の基本は、「馬はどんな動物?初心者が最初に知っておきたい馬の基礎知識」でも紹介しています。
馬が立ったまま休める理由
馬の脚には、関節、腱、靱帯が連動し、少ない筋肉の負担で姿勢を保ちやすくする仕組みがあります。この仕組みは「滞立機構」や「支持機構」と呼ばれます。簡単にいえば、脚の各部分が支え合い、立ち続けるために必要な力を抑える構造です。
後ろ脚では、左右のどちらかへ体重を多く預け、反対側の脚を軽く曲げて休ませることがあります。しばらくすると脚を替えることもあります。四本の脚を同じように固め続けているわけではありません。
また、関節を完全に固定する装置ではなく、筋肉をまったく使わないわけでもありません。馬は姿勢を細かく調整しながら立っています。立てていることだけを理由に、健康や十分な睡眠を保証することはできません。
馬も横になって眠る
馬が横になる姿勢には、胸を地面につけて四肢を折りたたむ伏臥姿勢と、体の側面を地面につける横臥姿勢があります。伏臥では頭を上げたまま休むこともあれば、地面へ下ろすこともあります。
馬は立ったままでも徐波睡眠の一部を取れますが、筋肉の力が大きく抜けるレム睡眠を安定して取るには、横になって体を支える必要があると考えられています。立ったままレム睡眠へ移ろうとすると姿勢を保ちにくいため、安全に横になれる場所が重要です。
横になっている馬を見ても、すぐに異常と決めつける必要はありません。穏やかに呼吸し、自然に起き上がり、その後も普段どおりなら睡眠や休息の可能性があります。ただし、初心者が近づいたり、無理に起こしたりせず、気になるときは管理者へ確認しましょう。
馬の睡眠にはどんな種類がある?
馬の休息には、周囲へある程度反応できるうとうとした状態、ノンレム睡眠、レム睡眠などがあります。ノンレム睡眠は脳や体の活動が落ち着く睡眠で、比較的浅い段階から深い段階まで含みます。馬は立位でも、ノンレム睡眠の一部を取れるとされています。
レム睡眠では眼球が素早く動き、筋肉の緊張が大きく低下します。そのため、馬は胸や体側を地面につけ、体を支えられる姿勢を取ります。ただし、人間の睡眠段階と姿勢をそのまま同じものとして考えることはできません。
外から姿勢を見るだけでは、本当に眠っているか、どの睡眠段階かを正確に判断できません。休んでいる時間と、実際に睡眠へ入っている時間も同じではない点に注意が必要です。
馬は1日に何時間寝る?
大学などの解説では、成馬の総睡眠時間は1日あたりおよそ2.5~5時間とされることがあります。ただし、研究方法や飼育条件で結果は異なり、すべての馬へ当てはまる固定値ではありません。立ったまま目を閉じている時間のすべてが睡眠とは限らないため、観察だけで正確な時間を測ることも困難です。
馬は人のように夜間へ睡眠をまとめるとは限らず、昼夜を通して短い睡眠を何度も取る「多相性」の傾向があります。研究例では、レム睡眠は1日の合計で20~30分程度と報告されることもありますが、これも環境や個体によって変わる目安です。
年齢、運動量、健康状態、痛み、安心して横になれるかどうかによって、睡眠と休息の配分は変化します。睡眠時間の数字だけで、その馬の健康状態を判断しないことが大切です。
子馬はよく眠る
成長期の子馬は、成馬よりも休息時間が長く、横になっている姿も多く見られる傾向があります。生まれて間もない時期は母馬の近くで横になり、短い睡眠を繰り返します。寝ている子馬のそばで母馬が立っていることもあります。
成長とともに、横になって休む時間の割合は減り、立った姿勢での休息が増えていきます。ただし、変化の時期や休み方には個体差があります。子馬が横になっていることだけを異常と考える必要はありません。
一方、起き上がれない、授乳しない、反応が弱いなど、普段と異なる様子が伴う場合は別です。管理者や獣医師へ速やかに伝えてください。子馬から成馬までの成長段階は、「馬の年齢は人間でいうと何歳?成長とライフステージを解説」も参考になります。
馬が安心して眠るために必要な環境
馬が横になって眠るには、周囲を安全だと感じられることが重要です。人や車の出入り、突然の大きな音、照明などの刺激が続くと、休みにくくなる場合があります。十分な広さと休息時間も必要です。
床は滑りにくく、横になったり立ち上がったりしやすい状態が望まれます。清潔で乾いた敷料は体を支え、床からの冷えや硬さを和らげます。換気や温度にも配慮し、暑さ、寒さ、湿気が強くなりすぎないよう管理します。
ただし、適した床材や敷料の量、馬房と放牧の使い方は、施設や馬の体格、健康状態によって異なります。一つの方法をすべての馬へ当てはめず、獣医師や飼養管理の専門家と相談しながら整えます。
群れで暮らす馬の休み方
馬は社会性のある動物で、周囲にほかの馬がいることが安心につながる場合があります。群れでは、すべての馬が同時に深く眠るとは限りません。一部が立って周囲へ注意を向ける間に、別の馬が横になるように見えることがあります。
ただし、必ず決まった「見張り役」がいると断定できるものではありません。群れの構成、馬同士の関係、利用できる休息場所、時間帯などで行動は変化します。野外で暮らす馬の行動を、馬房で管理されるすべての馬へそのまま当てはめないようにしましょう。
眠れていない可能性があるサイン
横になれる環境がない、痛くて横になりにくい、立ち上がりに不安がある、周囲を警戒しているなどの理由で、必要な睡眠を取りにくくなる場合があります。日中に強く眠そうに見える、立ったまま膝が折れるように沈み込む、急に崩れるといった変化は注意が必要です。
脚や前面に転倒・打撲の跡が増える、横になる場所を避ける、普段と休み方が変わることも手がかりになります。しかし、これらだけで睡眠障害や特定の病気とは診断できません。痛み、神経の問題、体調、環境など複数の原因が考えられます。
繰り返し崩れる、傷がある、動きや食欲にも変化がある場合は、管理者へ速やかに伝え、獣医師の確認を受けます。初心者が原因を確かめるために馬を動かしたり、睡眠を妨げたりしないでください。
横になっている馬を見たときの注意
馬が横になっているのは、普通の睡眠や休息の場合があります。急に近づく、大声で呼ぶ、体へ触れるなどして起こすと、馬が驚いて急に立ち上がる可能性があります。人も馬もけがをしないよう、距離を保って施設の管理者へ確認してください。
長時間起き上がれない、何度も寝起きを繰り返す、激しく転がる、発汗や荒い呼吸がある、反応が弱いなど、普段と異なる様子があれば速やかに知らせます。初心者だけで起こそうとしたり、体を引いたりしてはいけません。
馬が立ったまま目を閉じていたら
立ったまま目を閉じ、頭を下げ、片方の後ろ脚を軽く休ませている馬は、休息や浅い睡眠を取っている可能性があります。耳が周囲の音へ動いているか、呼吸が穏やかか、体全体に強い緊張がないかなども合わせて観察します。
ただし、目を閉じて静かにしていることだけで「安心している」「健康である」とは判断できません。痛みや体調不良で動きが少ない場合もあります。耳、目、脚などから様子を見るときの注意は、「馬の気持ちはどこを見れば分かる?耳・目・しっぽのサイン」で詳しく紹介しています。
馬へ近づく必要があるときは、管理者やインストラクターの許可と指示を優先してください。休んでいる馬を観察するために、無理に反応を引き出す必要はありません。
この記事のまとめ
- 馬は立った状態で休息や浅い睡眠を取るが、横になって眠ることもある
- 筋肉の負担を抑えて立てる滞立機構があるが、脚を完全に固定する仕組みではない
- 立位でも徐波睡眠の一部を取れるが、レム睡眠には横臥・伏臥の時間が必要とされる
- 睡眠時間や寝方は、年齢、健康状態、環境、群れなどで異なる
- 子馬は成馬より横になって休む時間が長い傾向がある
- 起き上がれない、繰り返し崩れるなど普段と違う場合は、管理者や獣医師へ相談する
馬は立ったまま休息や徐波睡眠の一部を取り、横になってレム睡眠を取ることもあります。姿勢だけで異常と判断せず、普段の様子や周囲の環境も合わせて観察することが大切です。気になる変化がある場合は、管理者や獣医師へ相談しましょう。